第25回放射性炭素国際会議(25th Radiocarbon Conference)
国立歴史民俗博物館・坂本 稔
2025年6月29日から7月4日までの日程で、ポーランドのAGH科学技術大学が主催する放射性炭素国際会議がクラクフで開催されました。今回で第25回目を迎えるこの会議は、3年に1度、放射性炭素(14C)に関わる世界中の研究者が集う重要な機会となっています。会議には、学際ハブメンバー(筆者、北川、三宅、南)を含む日本からの研究者も多く参加しました。
14Cは考古学における年代測定だけではなく、気候学、大気科学、水文学、堆積学など様々な分野で用いられています。樹木年輪中の14Cは、Miyake Eventに代表される太陽活動の指標として利用されています。また、14Cでラベリングされた薬の体内動態の解析や、死亡時期の推定といった法医学の分野への応用も進んでいます。
資料の処理法や測定法も重要なトピックです。現在、14Cの測定は加速器質量分析法 (AMS: Accelerator Mass Spectrometry) が主流ですが、近年では、二酸化炭素を直接導入して14Cを測定する陽イオン質量分析法(PIMS: Positive Ion Mass Spectrometry) が実用段階に入っています。イオン化効率を劇的に向上させる測定法として注目され、会議では特別セッションが設けられたほか、AGH大学に導入された装置の見学会も開催されました。
会議の終盤には、14C測定値を暦上の年代に換算するための較正曲線「IntCal」の改訂に関するロードマップが示されました。較正曲線は数年ごとに見直されており、現行のIntCal20には歴博が提供した日本産樹木年輪のデータも採用されています。Miyake Eventの発見に端を発し、年輪1層ごとの14C年代測定が世界中で実施されています。最新データを反映した次期IntCalは、2026年の公表が予定されています。
